2010年05月29日

『20 売るモノは過去の遺物、今売るのは関係性』

 こんにちは、猫耳DMことVOCALOIDな界隈では切身魚の人です。
 Andrew Dubber氏の無料e-booksで配布されている著書、『オンライン音楽について知っておきたい20のこと』(原題"The 20 Things You Must Know About Music Online"
)は大変知的に刺激を受ける良い論文です。
 20個ほどの、優先順位はないのですが、いずれも重要な『オンラインでの音楽ビジネスについて、知っておけ!』なお話が収められています。
 私が今日読んでみたのは『20 売るモノは過去の遺物、今売るのは関係性(Forget product - sell relationship)』です。本当に読みながら「うんうん」と首肯することしきりでした。
 実用新書のように論理的な日本語訳はheatwaveさんのブログでご覧いただけます。より理解を深めたい方はぜひご覧下さい。
http://peer2peer.blog79.fc2.com/blog-entry-1427.html
http://peer2peer.blog79.fc2.com/blog-entry-1624.html
 ここでは私の意訳や注釈を交えた引用つきで、その内容を少しご紹介いたしますね。以下の()内は私の注釈です。

 ビジネスとしての音楽は、ビジネス史上何度も重要な局面を経てきました。それらすべての局面についていえるのは、局面ごとに全く異なる金銭獲得モデルを有していた、という事です。さぁ、今度は最新の局面に飛び込んでいきましょう。

 今でも楽譜の採譜者(切身魚注:大昔には、紙の楽譜というアイテムがありました。紙の上に、聴き取った音符を書き付ける専門職がいたのです)や出版社(切身魚注:大昔には、紙の楽譜というアイテムがあり、これを出版して、化石燃料を用いて物理的に輸送することで音楽データをやり取りしていたのです)は存在していますが、現在の音楽ビジネスにおいては、かつてのような優勢な地位を占めているわけでありません。
 また同様に、ミュージックホールでの演奏の仕事もかつての地位を失っています。(切身魚注:これは特に、人件費や輸送費は全国均一でお高い割に、視聴者がそんなに沢山居るわけではない、日本の地方都市で顕著な傾向です)

 これまでのビジネス史で、人々は『音楽』コンテンツからどのようにしてお金を儲けてきたのか、その主だった方法について振り返ってみることにしましょう。
 いずれも未だ何かしらの形で残ってはいますが、それぞれもう盛りを過ぎています。
 新たなテクノロジーが発展するごとに、それぞれの『儲け方、ビジネスモデル』(切身魚注:原語ではPlayer。ビジネスをゲームに例えた表現です)の得られる金銭は、新たな『儲け方』の登場により大きく変化してきました。
 新たなテクノロジーが登場する度に、産業で支配的な力を得たプレイヤーは大きな波乱を引き起こすことになります。毎度のことなのです。
 
パトロン、金銭的後援者

 バッハがいた時代、というと、まるで恐竜が存在した時代かのごとく大昔に思えるかもしれません。しかし実際には、ほんの数世代前のことです。
 この時代に最も尊ばれた音楽の天才たちは、金持ちの後援者(パトロン)たちの道楽と入れ込み具合に生活を支えられていました。一般に、パトロンは王族や貴族(切身魚注:当然、貴族並みの資産を有した大寺院や教皇庁も含まれます)たちであり、音楽家にとってパトロンを得ることは非常に困難なことでした。
 しかし、王族や貴族にとっては、『文化の保護者』として、神を―そしてパトロンたる自分たちを―賛美するアーティストと、アーティストの音楽を選び抜き、奨励することは、正しく、意義ある行為だったのです。
 
ライブ・パフォーマンス

 音楽演奏が大衆向けの商業的エンターテイメントとなったとき、当然ながら芸術のパトロンたちは驚愕したことでしょう。
 価値ある創作を育んだ文化的土壌を支え、奨励してきた自分たちの業績を否定されたわけですから。しかし、音楽家やその新たな仕事仲間たちは、『少数の人々』よりも『多数の人々』のポケットからお金を集めた方がもっとうまくいくことに気づきました。
 このように突如として、プロフェッショナルへの道が大きく開かれることになりました。
 
印刷出版

 楽譜の誕生は、当時の音楽産業の死を引き起こしました。
 自宅のピアノで音楽を演奏できるような時代に、どうしてわざわざコンサートに行くでしょうか?ポピュラーソングの大量生産は、視聴者の音楽との関わり方、消費の仕方を変えました。
 コンサートホールが消えてなくなることはありませんでした。しかし、楽譜出版は確実にコンサートホール事業に深い傷を負わせました。
 
録音物

 コンサートホールで名をあげた有名なアーティストたちは、録音技術の誕生により、新たな収益を得るようになりました。
 現在では、家の中でステージやスクリーン上のスターの音楽を楽しむことができますし、スターが実際の演奏しているのを聞くこともできます。まるで魔法のようなことですね。
 しかし残念なことに、当時楽譜出版によって金銭を得ていた音楽産業全体にとっては、再び「音楽産業の死」が引き起こされたのです。
 
放送事業

 ラジオの誕生によって、音楽ビジネスは新たな脅威に直面しました。レコードを買うことなく自宅で音楽を聞くことができるようになったなら、いったいどうして人々は音楽にお金をかけてくれるでしょうか?
 最近でも見られる海賊版出版行為の排斥、訴訟、賠償請求といったものは、ここから発生してきました。
 もちろん、現在でもラジオは音楽セールスを最も強力に推進してくれる存在であり続けています。同時に、コンサートホール以外の『演奏権収益』を生み出す存在でもあります。
 
多メディア展開事業

 あなたの音楽をラジオで掛けてもらうのも1つの手ですが、映画、テレビ番組、コマーシャル、ビデオゲームに使ってもらうという別のルートもあります。
 突如として、音楽からお金を儲けるための最速かつ最良の方法は、「単に音楽が聞かれること」から、「音楽をたくさんの人々が触れるものに結びつけること」になりました。
 興味深いことに、現金を出すのはもはや視聴者ではなくなったということです。(切身魚注:企業になった、という意味で用いられていると思われます。資生堂の化粧品CMやドラマ主題歌といった形で、莫大なお金が動いた歴史を思い起こしてください。そして、アニメ主題歌にさえこの手法が乱暴に用いられ、一部では『コンテンツの内容とかけはなれすぎた音楽』が多用された結果、アニメファンによる嫌悪感を作り出してしまったこともあるのです。)
 
そして、新たなテクノロジーがここに…

 音楽にとって新たなテクノロジー環境が登場するたびに、すべてがシフトします。
 それまで支配的だったものは後退し、ひとたび失われたシェアは別ので埋め合わされます。
 かつての音楽産業はラジオ局の閉鎖を要求しました。『無料で音楽を放送する』のを防ごうと、懸命の努力を続けていたのです。そのとき、彼らが自らのドル箱を絞め殺そうとしているだなんて、一体誰が気づいていたでしょうか?

 これは古典的なマクルーハンの法則です。(切身魚注:"We shape our tools and thereafter our tools shape us"、われわれは自分たちの使う道具を形作った。しかるにその後、われわれの作った道具が、われわれの新たな在りようを形作る……という、メディア論の古典のこと。http://www.horton.ednet.ns.ca/staff/scottbennett/media/ )

 しかし、こうした金銭獲得形態の変化は、常に問題をはらんできました。1942年の録音の禁止、レコード時代のイギリスでラジオに課せられた音楽の放送制限(ニードルタイム)、1980年代の「家庭での録音は音楽を殺す(Home Taping is Killing Music)」キャンペーン、近年のメジャーレーベルによる消費者を相手取った訴訟…、新たなテクノロジーの登場は、いずれの時代においても類似した状況を引き起こしてきました。
 けれど結局のところ、問題はうまく収まるのです。

 音楽ビジネスにとって、そして特にあなたにとって最も重要なのは、このゲームの勝者は『新たな環境を理解した人々』であり、『視聴者とアーティストをつなぐ方法を見いだした人々』だということです。実にシンプルなことです。
 
関係性を売る

 パトロン制度が過去のものとなったのと同じように、音楽産業の他の側面も新たなメディア環境に移行し、その重要性を失ってきました。『音楽を家に持ち帰り繰り返し聞くために、お金と交換で手に入れる』という考えは、急速に時代遅れとなりつつあります。

 消費者個人に対して、ある種の物質的な形態で録音物を販売したいというのは、私たちが常々望んでしまうことではありますが、もうそれは絵に描いた餅なのです。
 つまり、『モノ』を売るのはもはや音楽からお金を儲けるための主要な手段ではなくなってきているのです。

 そうした視点に立つと、たとえ現在大成功しているiTunes Music Storeといえども、完全に古臭いものだと言えるでしょう。
 新たなビジネスモデルは、熱心なファンコミュニティとの継続した経済関係の構築にあります。それは、『注目』と『反復的な関わり』でもあります。
 個別の契約や海賊版ダウンロードによる『失われたセールス』という考えを捨て去るということです。CDやMP3は、それそのものが音楽エクスペリエンスの機会になるというよりは、音楽エクスペリエンスとの関わりの『記念品』的な価値をますます強めていくことでしょう。
 
支配的なパラダイムであれ

これまでにMySpace、Facebook、Mog、Last.FM、iLike、Twitter、Skype、Second Life、Tumblr、Vox、Blogger、Live Messenger、Yahoo! Groups、Flickr、Google Reader、Bloglinesを使ったことのある人たちは、嬉々としてあなたに言うでしょう。

「『それ』は会話をすることなんだ」
「『それ』は繋がることなんだ」
「『それ』は関係を持つことなんだ」

 『それ』はトップダウン型の、1対多数の供給モデルではありません。街でたまたま見かけた製品にお金を支払ってくれる消費者でもありません。信頼関係、お勧めしあうこと、そして評判を築くこと、そして、多対多の対話です。
 お金は注目が集まる先に流れていくのです。
 
 
  という風に、私家訳したあと、オリジナルの著者アンドリュー・ダバーさんの意識と、現代の最先端たる『オンラインの音楽ビジネス』とて、いずれは何か別のものに王座を譲らねばならない無常を感じました。
 著者のアンドリューさんは、原稿のなかで何度も『ゲーム』とか『プレイヤー』、『スコア』『レート』といった用語を用いています。まるで、対戦ゲームや、大人数参加型オンラインゲームの話をしているかのようです。
 そして、それは現実のある側面を見事に言い表す、すばらしい表現手法だと思いました。
 どのオンラインゲームよりも面白く、参加人数は約60億と大規模、出会いに富んでいて、マシンスペックに依拠しない、参加条件は平等、チート不可能で、現実貨幣が得られるゲームといえば『現実』なのです。
 参加条件は『生まれる』ことだけ、辞める条件は『死ぬ』ことです。
 サーバーダウンも巻き戻しもリセットもありませんから、快適に24時間プレイ可能ですよ。
 この世でもっとも意のままに鍛えられるキャラクター、それは自分自身なのです。
 ただし、ゲームのルールや戦略を研究せず、またキャラクターたる自分自身の能力や技能を鑑みずに、闇雲にプレイしても良い成果は望めません。攻略方法は沢山ありますが、自分にあった攻略方法を取捨選択しないと、キャラクターたる自分自身を損なってしまいます。
 音楽ビジネスに限った話でなく、全人類にとって『現実の一側面』をよく表した考え方だと思うのは、こういうわけでございます。
 もっとも、安易な『ゲームの理論』で現実の多彩な側面を切り捨て、自分に都合のいい部分だけを信じようとするのは危険なことです。包括的に考えねば、短絡思考のそしりは免れえません。
 ここでいう「包括的」とは、『ゲームの基本ルール』を切り捨てないことです。
 『基本ルール』、それは、『プレイヤーは誠実に自己の夢の実現を希求し、他者の自由を侵害しないこと』です。また、私にとって『プレイヤー』は人類だけでなく、全ての生命体を含めた概念であることも申し上げておきましょう。
「人類は恒久平和を達成し、互いに調和しながら繁栄する英知を実現した!しかし、他の生物は全て滅びたようだ!」
 では困るのですよ。マジ困ります。
 同じことは創作活動全般においても当てはまります。
「『VOCALOID』使用音楽は大人気、業界を震撼させた!しかし、それ以外の音楽全般は滅亡し、記録上にしか存在しない!」
 とか、
「音楽ビジネスは新たな金銭獲得モデルを構築し、個人単位のアーティストたちは新たな成功を享受するようになった!しかし、アナログ創作物は絶滅した!」
 というのは困るのですよ。
 
 『ゲームのように現実を見て、分析する視点』は面白くためになります。同時に、忘れてはならないことがあります。
 それは、「現時点の勝利は一時的なものでしかなく、ゲームの盤面に新たな技術が現れた場合、その技術は盤面を変更し、プレイヤーの勝率や攻略法を変更する」というものです。
 現代の最先端たる『オンラインの音楽ビジネス』とて、いずれは何か別のものや方法論に王座を譲らねばならないのです。
 また、オンラインコンテンツに触れない人々は、今この地球上に何億人もいます。彼らの消費傾向を忘れて、小さなパイに過ぎない『オンラインビジネス』でのシェア奪い合いに興じてばかりいると、超大規模MMORPG『現実』の中では極めて小さな成果しかあげられない。
 いずれは隅っこに追いやられ、忘れられるプレイヤーになってしまうことでしょう。オンラインに取って代わる情報流通技術が、今後現れたらどうなさるおつもり?というヤツです。

「『モノ』を売るのはもはや音楽からお金を儲けるための主要な手段ではなくなってきているのです。」
 という一文からも、現在のコンテンツ産業のお金の儲け方を伺い知る事が出来ます。
 着うたや着メロは『物質界の構成素材』を必要としないコンテンツ商品です。
 また、クリプトン・フューチャー・メディア社の開始したオンライン専門音楽配信代行サービス、『RouteR』は、この流れが個人単位、サークル単位の動きにも波及していることを示しています。
 同様のアグリゲーターサービスは他にも沢山あります。
 が、
・完全に日本語でやり取りができる
・24時間受付してくれる
・オンラインだけで全ての作業が完了する
・取り分や契約内容が明示されており、会員にならなくてもそれが分かる
 この4点全てを兼ね備えたサービスはこれまでにありませんでした。
 部分的になら、これまでのサービスにもありました。
・良くある質問ページや一般的に使用するメニューなら、日本語化されている。つまり、突っ込んだ話やチョット特殊な話はことごとく英語でメールしないといけない。大半の日本人にとっては、ちょー面倒くさい。
 とか、
・一度はCDを送りつけないといけない。つまりシフト制交代勤務の社会人や、近所に郵便局のない人はこの時点で切り捨てられている。
 とか、
・会員になったら(つまり貴様の個人情報と会費をよこせば)取り分や契約内容を教えてやる。実は会員になっても教えてくれないところが大半である。
 といったサービスばかりだったのです。
 個人単位、サークル単位の動きに、きめ細やかな対応ができるサービスこそ、インターネット時代のオンラインビジネスにおいて、成功する必要条件です。最低限ライン、と申し上げてもよいでしょう。
「まず会員になって、貴様の個人情報をよこせ」
 というサイトは、幾ら無料でテンプレートやらなにやら有用なものを提供していても、早晩衰退することでしょう。
 消費者はとにかく、『手軽に欲しいものを手に入れたい、スパムに悩まされたくない』からです。
 「どんなにお手軽とうたったところで、結局手間をとらせる」ことを指して、『個人情報の入力が面倒』というのです。「個人情報を登録しなくても、気前よく配布してくれる無料サイト」があれば、注目とお金はみなそちらに流れていくことでしょう。

 もっとも、日本のVOCALOID界隈に限定したお話で申せば、人々は『物質界の構成素材』不要なコンテンツを購入している一方で、『モノ』に執着する傾向も共に示しています。私は『ぜんぜん』と言えるほどモノに執着しておりませんが、ファンといいうるほど熱心な人は、『お布施』と称して気前よく買い込みます。
 この流れも、
『作者への還元、素敵だと感じたコンテンツにこそ、小額でも支払う枠組み』
 や『共通の意識』が出来て、広まれば広まるだけ、変化する可能性があります。まさにマクルーハンの古典的メディアの法則です。
 PayPalやAmazonギフトコードは、個人やサークル単位の経済的活動を活性化させる力を秘めています。
「一円たりといえども、お金を儲ける日曜アーティストは許せない!!1!!!」
 とヒステリックに騒ぐ人は、長期的視点で言いますと自らの文化を攻撃しているのです。
 たとえば私の一ヶ月の月収は14万3999円ですが、手取りは11万2540円です。そこから消費税分の5%に相当する『5627円』を、同人活動で手に入れられるでしょうか?
 答えはノー、です。まず私は、金銭を対価に得るべく『物質界の構成素材』を持ったコンテンツを世に送り出していません。
 また、PayPalやAmazonギフトコードを「Donate(寄付)」するための仕組みも、サイトに用意しておりません。
 それでも仮に、PayPalやAmazonギフトコードを「Donate(寄付)」するための仕組みを用意すれば、誰か熱心なファンがお金を押し付けてくれるでしょうか?
 自分の能力や、サイトのアクセスログを勘案しますと、あまり楽天的にはなれませんね。つまり答えはノー、なのです。
 もっとも悲観的になっているわけではございません。
 いずれ実験的に、『物質界の構成素材』を持たないデジタルコンテンツのみで『ドネーションウェア』として画集を出してみようか?と計画しています。
 こうした小論文を読むことで、計画の練り直しをより現実的なものにできました。
 次の『まとめ』の節も興味深く拝読してまいりたいものです。
 完全に、全部の英語ニュアンスを正確に、違和感ない日本語に翻訳することは困難です。(だからこそ、プロ翻訳者は凄いものですし、お金がもらえる職業なのです)
 ココではあくまで、私の理解できた意味をご紹介してまいりたいものです。
 ゆるりとお楽しみくださいませ。
 人生の楽しみは尽きませんのぅ!はっはっはっはっ。

参考リンク先にて無料のPDFファイルを配布中。

著者: Andrew Dubber 原文英語 他
原典:The 20 things you MUST know about music online
http://www.newmusicstrategies.com/ebook/

そのほかの日本語訳 heatwaveさんのブログ
http://peer2peer.blog79.fc2.com/blog-entry-1427.html
http://peer2peer.blog79.fc2.com/blog-entry-1624.html
 
posted by 切身魚(Kirimisakana) at 13:47| Comment(0) | 20のこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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